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横浜地方裁判所 平成5年(行ウ)4号 判決 1998年1月26日

横浜市都筑区川和町一五四三番地五

原告

有限会社七五三木木工所

右代表者代表取締役

七五三木秀通

右訴訟代理人弁護士

森卓爾

小口千惠子

横浜市緑区市が尾町二二番地三

被告

緑税務署長 赤池三男

右指定代理人

森悦子

堀久司

菅野勝雄

宇山聡

佐久間康良

石黒里花

主文

一  被告が、平成二年三月三〇日付けでした、

1  原告の昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日までの事業年度分法人税の更正うち、所得金額三八万六八五三円、税額一一万五三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、

2  原告の昭和六二年一一月一日から昭和六三年一〇月三一日までの事業年度分法人税の更正のうち、所得金額二〇九万九二六〇円、税額六二万八六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、

3  原告の昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの事業年度分法人税の更正のうち、所得金額一九〇万四五四〇円、税額五六万九三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、

をそれぞれ取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成二年三月三〇日付けでした昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日までの事業年度以降の法人税の青色申告承認取消処分を取り消す。

二  被告が平成二年三月三〇日付けでした、

1  原告の昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日までの事業年度分法人税の更正のうち、所得金額三八万六八五三円、税額一一万五三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、

2  原告の昭和六二年一一月一日から昭和六三年一〇月三一日までの事業年度分法人税の更正のうち、所得金額二〇九万九二六〇円、税額六二万八六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、

3  原告の昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの事業年度分法人税の更正のうち、所得金額一九〇万四五四〇円、税額五六万九三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、

をそれぞれ取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、昭和六一年一〇月期から平成元年一〇月期までの各事業年度(以下「本件係争事業年度」という。)の法人税についてした青色申告に係る所得に関し税務調査を受けた際、第三者の立会いや具体的調査理由の開示を求めるなどして調査に応じなかったとされ、そのため、実額で本件係争事業年度の所得を確認することが困難であるなどと判断されて、被告から青色申告の承認を取り消された上、推計課税による更正及び過少申告加算税賦課決定を受けたことに対し、青色申告承認取消しの効力及び推計の必要性等を争い、また、原告の事業内容は、内装仕上工事業であり、被告が比準同業者抽出の基準とした事業内容とは異なるから、推計の合理性がないなどとし、さらに、売上金額について実額による反証をも試みているという事案であり、本件係争事業年度について、原告がした確定申告、被告がした青色申告承認の取消し、更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」という。)、原告がした不服申立て並びにこれに対する決定・裁決の経緯は、別表一、同二の一ないし三のとおりであって、この点は当事者間に争いがない。

二  争点

本件の争点は、(1)税務調査の手続が違法かどうか、(2)被告の推計に必要性及び合理性があるかどうか、(3)青色申告承認取消処分が違法かどうか、(4)原告が売上金額についてした実額主張の内容が事実に符合するかどうかである。

これらについての当事者双方の主張は、以下のとおりである。

1  調査手続の違法性

(一) 調査の必要性の欠如

(原告の主張)

被告がした税務調査は、以下のとおり、調査の必要性がないにもかかわらず、横浜緑民主商工会の会員であった原告に対する弾圧の目的でされた違法なものである。

東京国税局は、昭和六一年八月、民主商工会の会員に対する税務調査を専門に担当する職員を対象に、特定事務担当者研修を実施した。その研修資料として配付された「昭和六一事務年度留意事項」は、民主商工会を納税非協力団体とした上、調査実施上の基本的態度として、民主商工会の会員に対する調査遂行の心構えや第三者の立会い排除、反面調査の早期着手などを明示しており、また、東京国税局は、昭和六二年七月、民主商工会の会員を対象とする税務調査に関し、調査時の立会人排除、調査日の一方的指定、反面調査の早期実施等の八項目からなる「所得税事務運営のポイント」と題する指示文書を出し、民主商工会の会員に対する弾圧の姿勢を強めてきた。そして、神奈川県においても、昭和六三年ころから、右の方針に従い、民主商工会の会員に対し、特定の係官による無予告の臨場、立会人の排除等、狙い打ち的な調査が行われるようになり、このころから、県内の民主商工会の会員に対する更正処分が急増している。

被告は、原告が横浜緑民主商工会の会員であることを知っていたのであり、本件調査は、税務当局の方針に従い、調査の必要性がないにもかかわらず、原告に対する弾圧の意図でされたものである。本件係争事業年度の原告の所得については、被告の反面調査や不服申立てに対する審査においても、格別疑問のある点は判明しなかったのであり、このことからも、原告に対する具体的な調査の必要性がなかったことは明らかである。

(被告の主張)

被告は、本件の調査対象期間についての原告の確定申告書を検討した結果、原告が設立された昭和六〇年一〇月以降、原告の法人税の調査を行っていないことから、原告の申告に係る所得金額が適正であるか否かを確認するため調査の必要性があると判断し、被告係官に調査を命じたものであり、調査の必要性が存したことは明らかである。

(二) 調査理由の不開示

(原告の主張)

申告納税制度の下で、納税者が確定申告により納税額を確定させた後に、税務署が右税額の適否につき調査をするためには、申告の誤りを疑うに足りる具体的・合理的根拠が存することが必要であり、また、調査に際し、右根拠を納税者に示すことは、憲法三一条の定める適正手続の要請である。しかるに、前述のとおり、原告の申告には何の問題もなかったのであり、被告のいう所得の確認は、具体的な調査理由には当たらない。また、被告は、長期間原告に対する調査を行っていなかったことが調査理由であるとするが、原告の設立は昭和六〇年一一月であり、本件調査までに長期間経過していたとはいえない。そして、平成元年四月一一日、被告係官が原告の事業所を訪れた際、原告代表者は、原告が調査対象に選ばれた理由を具体的に説明するよう求めたが、被告係官は、前述した所得の確認ということと、長期間調査を行っていないことを理由とするのみで、具体的な調査理由を告知しなかった。殊に、原告は、右調査に先立ち、株式会社日商ビジネスリサーチの社員が、取引先から依頼されたと称して原告の経理状況等の調査に訪れたため、原告が調査対象者に選ばれた理由に疑念を抱いており、右事情を被告係官に告げたにもかかわらず、被告係官から具体的な説明はなかった。

したがって、右調査手続は違法である。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

(三) 事前通知の欠如

(原告の主張)

被告係官は、平成元年二月一七日、上司である統括官から無予告で臨場するようにとの指示を受け、事前通知を行わないまま原告の事業所に臨場し、平成二年二月二八日の臨場の際も、事前通知を行っておらず、このような調査方法は違法である。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

(四) 第三者の立会い拒否

(原告の主張)

平成元年四月一一日の臨場調査に際し、原告代表者は、調査に協力すべく、総勘定元帳、領収証等の帳簿書類を準備し、被告係官に対し、昭和六二年一〇月期の総勘定元帳の売上の部分を示そうとしたが、被告係官は、その場に数名の立会人がいることのみを理由に帳簿書類の提示を求めようとすらせず、わずか二八分で、調査を打ち切った。

ところで、一般の納税者に対する税務調査の際には、第三者が立ち会うことも稀ではなく、現に、青色申告会等に所属する納税者に対する税務調査においては、第三者の立会いが認められている。このように、民主商工会の会員についてのみ、第三者の立会いを排除することは、納税者が特定の団体に加入していることを理由に不当な差別的扱いをすることにほかならず、憲法の平等原則に反する。また、納税者は、税法や税務に精通しておらず、公権力を背景とする税務職員の質問検査に対し、自己の権利・利益を擁護する手段を有しないから、納税者が税務調査に際し、自己の信頼する者の立会いを求めるのは当然であり、これを排除すべき理由はない。被告は、第三者のいるところで帳簿書類につき質問をすると、取引先の秘密が守られなくなるとするが、税務職員は、帳簿の記載の範囲内で質問をするにとどまり、取引先の実態等について詳しい質問をするわけではないから、守秘義務違反の問題が生じる余地はない。したがって、立会人がいることを理由に調査を拒否する理由はないというべきであり、右調査方法は違法である。

(被告の主張)

税務職員が質問検査権を行使する場合の第三者の立会いについては、税理士への通知を定めた税理士法三四条以外に、特段の定めがなく、税理士以外の立会いを認めるか否かは権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられるところ、税務調査に際しては、調査内容が取引先等の第三者に及ぶことも少なくなく、被調査者に、法律上の守秘義務を負わない第三者の立会いを要求する権利があるということはできない。したがって、本件で、被告係官が第三者の立会いを理由に調査を行わなかったことは、正当な措置というべきであるる

(五) 反面調査の違法性

(原告の主張)

被告は、平成元年二月一七日に原告の事業所に臨場した際及び同年四月一一日の臨場調査の際には、昭和六一年一〇月期から昭和六三年一〇月期までの事業年度を調査の対象期間としていたが、その後、被告係官が平成二年二月二八日に原告の事業所に臨場するまでの間に、原告の昭和六二年一〇月期から平成元年一〇月期までの事業所得について反面調査を行っていたのである。そうすると、被告は、平成元年一〇月期の所得については、事前調査を経ずに、直ちに反面調査を行っていたことになる。被告の準拠する税務運営方針も、「反面調査は客観的に見てやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。」としているのであり、このような反面調査は違法である。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

2  推計の必要性

(被告の主張)

被告係官二名は、平成元年二月一七日、原告の事業所に臨場し、原告代表者に対し、昭和六一年一〇月期から昭和六三年一〇月期までの法人税の調査に赴いた旨申し述べ、調査に協力するよう要請し、帳簿書類等の提示を求めたところ、原告の代表者は、外出予定であることを理由に調査には応じられないとし、次回の調査日時については、翌日電話をすると返答した。

翌日、原告代表者から電話があり、調査日時を決めるやりとりの中で、被告係官が、原告代表者に調査に関係のない第三者の立会いは認められない旨説明すると、原告代表者はこれに反発し、一方的に電話を切った。

その後、何度か電話でのやりとりがあった後、同年三月一七日に、原告代表者から被告係官に電話連絡があり、同年四月一一日に被告係官が原告の事業所に調査に赴くことで合意した。その際も、被告係官が、調査に関係のない第三者の立会いは認められないと告げたが、原告代表者は聞き入れようとしなかった。

被告係官二名は、平成元年四月一一日、原告の事業所に調査に赴いたところ、その場には、原告代表者とその妻のほかに、横浜市議会議員の大貫憲夫と横浜緑民主商工会の事務局長である岩館利隆ほか三名が待機していた。原告代表者らは、被告係官に対し、臨場の趣旨を質すなどしたため、被告係官は、原告の設立以来、法人税の調査を行っていないため、所得の確認に赴いた旨告げ、調査に関係のない第三者の退席を求めたが、原告代表者らは、これに応じようとしなかった。そして、このようなやりとりが三〇分近くも続いたため、被告係官は、当日の調査の続行は不可能であると判断し、原告代表者に次回の調査日時を決めたいと申し入れたが、原告代表者は、今後の調査には一切協力しないとして、激しい見幕で拒否した。そこで、被告係官は、法人税調査を拒否すれば、税務署独自の調査を行わなければならないこと、帳簿書類等の提示がなければ、青色申告の承認を取り消さなければならなくなることを説明したが、原告代表者は、「はい、どうぞ。審判所でお会いしましょう。」などといって、取り合わなかった。そこで、被告係官は、調査を断念し、原告の事業所を辞去せざるを得なかった。

その後、被告係官は、原告の取引先等に関する調査を進めていたところ、原告から平成元年一〇月期の確定申告書が提出されたため、平成二年二月二八日、原告の事業所に臨場し、原告代表者に対し、調査の対象期間を昭和六一年一〇月期から昭和六三年一〇月期までの事業年度から、本件係争事業年度に変更する旨伝えるとともに、調査に応じる意思があるかどうか再度確認したが、原告代表者は、これまでと同様に、応じる態度を示さなかった。そのため、被告係官は、これ以上の調査は不可能であると判断し、原告の事業所を辞去した。

このように、被告係官は、原告代表者に対し、再三にわたり、第三者を退席させた上で調査に協力するよう求めたにもかかわらず、原告代表者は、具体的な調査理由の開示を執拗に求めるなどして、終始、調査に非協力的な態度をとり続けたため、被告は、やむなく、推計により本件係争事業年度の原告の所得金額の算定をしたものである。したがって、推計の必要性が認められることは明らかである。

原告は、平成元年四月一一日の臨場調査に際し、原告代表者が帳簿書類等を入れたダンボール箱をそばに置いていたとするが、ダンボール箱にはガムテープで封がしてあり、ダンボール箱の中を確認することはできなかった。また、原告は、右の際、原告代表者が帳簿書類を手にとって被告係官に示したとするが、原告代表者が立会人の退席に応ぜず、また、具体的な調査理由を開示しない限り調査には応じられないと強硬に主張していたことからすれば、被告係官が帳簿書類等の内容を調査し得る状況にはなかったというべきである。

(原告の主張)

被告係官は、平成元年二月一七日、原告の事業所に臨場した際、法人税の調査に赴いたと告げたのみで、調査の対象年度には触れず、原告代表者がこれから外出するところであると告げると、次の調査可能日時を尋ねただけで、わずか数分で退去した。

その後、原告代表者が調査日時を同年二月末ころと決めて、その旨被告係官に連絡したが、被告係官は、忙しいのであとにしてほしいなどといって、このときは、調査日時が決まらなかった。なお、調査の日時を決めるやりとりの中で、第三者の立会いの話は出ていない。

原告は、平成元年四月一一日の調査に際し、調査に協力すべく三年分の総勘定元帳、領収書、振替伝票等の帳簿書類を準備し、その一部を被告係官に示そうとした。それにもかかわらず、被告係官は、立会人がいることを理由にこれらの提示を求めようとすらせず、わずか二八分で調査を切り上げた。原告としては、帳簿書類の記帳の正確性を被告係官に確認してほしいと考えており、第三者の立会いについても、固執するつもりはなかったが、被告係官は、原告が調査に協力しないとの偏見から、調査を遂行しようとしなかった。

このように、原告に対する調査はわずか一回しか行われておらず、しかも、被告係官は、原告が調査に協力しようとしたにもかかわらず、立会人がいることを口実に調査をしなかったものであり、推計の必要性が認められないことは明らかである。

また、被告は、平成元年四月一一日の臨場調査の後、調査の対象期間を、当初の昭和六一年一〇月期から昭和六三年一〇月期までの事業年度から、本件係争事業年度に変更しているが、このような場合、その旨原告に連絡し、新たに対象期間に加わった平成元年一〇月期分について、十分な事前調査を行う必要がある。ところが、被告係官は、平成二年二月二八日に原告の事業所に無予告で訪れ、調査対象期間が従前と異なることなどを告げただけで立ち去っており、平成元年一〇月期分についても調査を行ったとの口実作りのため、かたちだけ原告の事業所に赴いたに過ぎない。したがって、少なくとも、平成元年一〇月期分については、推計の必要性は認められない。

3  青色申告承認取消しの効力

(被告の主張)

法人税法一二七条一項一号は、帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法一二六条一項の規定する大蔵省令の定めるところに従って行われていないことを青色申告承認の取消事由としているが、これは、青色申告の承認を受けた法人の帳簿書類について、税務署長が同法一五三条の質問調査を行えることを前提に、その調査により帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われていることを確認することができる場合にのみ右承認による特典を付与しようとする趣旨である。そして、青色申告制度は、申告の基礎となる法人の帳簿書類の正確さに対する信頼を基礎として成り立つものであるから、当該法人が帳簿書類の調査に応じないため、その備付け、記録又は保存が正しく行われているかどうかを確認することができない場合は、青色申告の特典を認める理由はない。したがって、同法一二六条一項は、青色申告法人の帳簿書類が客観的に存在し、当該法人が現にこれをこれを保存していることのみならず、納税者において、税務職員が必要に応じていつでも閲覧しうる状態にしておくことをも含むものと解すべきである。

本件で、原告は、前述のように、被告係官が再三にわたり、調査に関係のない立会人を退席させた上で調査に協力するよう要請したにもかかわらず、調査理由の開示を執拗に求めるなどして、帳簿書類の提示に応じなかったものであり、そのため、被告は、原告の帳簿書類の備付け、記録又は保存の有無を確認することができなかったのであるから、それが法人税法一二七条一項一号に当たることは明らかである。

したがって、本件青色申告承認の取消しは、理由がある。

(原告の主張)

法人税法一二七条一項一号は、青色申告承認の取消事由として、「その事業年度に係る帳簿の備付け、記録又は保存が前条第一項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないこと」と定めるのみであり、そうすると、帳簿の備付等がされていたが、調査に際し、青色申告者がこれを提示しなかった場合や、税務職員が、第三者の立会いを理由に帳簿を確認しなかった場合がこれに該当しないことは文理上明らかである。そして、帳簿の備付け、記録及び保存は、性質の異なる義務として法が個別に規定しているものであり、右法令上、これら以外に、税務職員から帳簿書類の提示を求められた場合に、これに直ちに応ずべき義務があると解釈することはできない。憲法三〇条、八四条の租税法律主義からしても、青色申告承認の取消しのような不利益処分の要件の解釈については、納税者に不利益な方向での類推解釈、拡張解釈は許されないというべきである。

本件で、原告代表者は、被告係官に具体的な調査理由を尋ねたり、第三者の立会いについて意見を述べたことはあっても、これに固執したわけではなく、帳簿書類が存在することを明らかにし、その一部を進んで示そうとしたのであるから、被告係官が帳簿書類を確認することは十分可能であった。しかしながら、被告係官は、第三者の立会いのみを理由に、帳簿の提示を要求すらせず、わずかの時間で調査を打ち切ったもので、帳簿書類の確認のため、社会通念上、当然に要求される程度の努力を怠ったというべきである。したがって、本件は、法人税法一二七条一項一号に当たらず、被告による青色申告承認の取消しは、違法である。

4  本件更正の根拠

(一) 事業所得の金額及びその計算根拠

(被告の主張)

被告が本訴において主張する本件係争事業年度の所得金額とその計算根拠は、次のとおりである。

(1) 昭和六二年一〇月期

右事業年度の所得金額は四二九万四四二六円、法人税額は一二八万七七〇〇円であり、その算出経過は、次のとおりである。

<1> 売上金額 四二五二万七二八七円

右金額は、<2>の売上原価の金額一〇八一万八九四二円を原告と業種及び事業規模を同じくする法人(以下「比準同業者」という。)一一社の売上金額に対する売上原価の割合の平均値(以下「売上原価率」という。)二五・四四パーセントで除して算出した金額である。

<2> 売上原価 一〇八一万八九四二円

右金額は、被告が調査により把握した原告の材料仕入の金額であり、その内訳は、別紙1のとおりである。なお、売上原価について、期首及び期末の棚卸金額を加算しなかったのは、昭和六二年一〇月期における原告の事業内容、事業規模等に特段の変化がなく、期首及び期末の棚卸金額が変動する格別の理由も認められないことから、期末と期首における棚卸金額を同額と認定したことによるものであり、以下の係争事業年度についても、同様である。

<3> 一般経費 二〇〇一万七五九三円

右金額は、<1>の売上金額四二五二万七二八七円に比準同業者一一社の売上金額に対する一般経費の合計金額の割合の平均値(以下「一般経費率」という。)四七・〇七パーセントを乗じて算出した金額である。

なお、一般経費とは、損金に算入すべきもののうち売上原価並びに役員報酬の額、建物及び建物附属設備に係る減価償却費、支払利息及び割引料、貸倒金、地代家賃、固定資産除却損、固定資産売却損以外の費用であり、以下の係争事業年度についても同様である。

<4> 役員報酬 六六〇万円

右金額は、原告の昭和六二年一〇月期の確定申告書に添付された「第二期決算報告書」に記載された役員報酬の金額である。

<5> 建物附属設備に係る減価償却費 二万八八七五円

右金額は、原告の昭和六二年一〇月期の確定申告書に記載された建物附属設備に係る減価償却費の金額である。

<6> 地代家賃 七二万円

右金額は、原告の昭和六二年一〇月期の確定申告書に添付された「第二期決算報告書」に記載された地代家賃の金額である。

<7> 支払利息及び割引料 四万九四八八円

右金額は、原告の昭和六二年一〇月期の確定申告書に添付された「第二期決算報告書」に記載された支払利息及び割引料の金額である。

<8> 受取利息 一六三〇円

右金額は、原告の昭和六二年一〇月期の確定申告書に添付された「第二期決算報告書」に記載された受取利息の金額である。

<9> 法人税額から控除される所得税額 四〇七円

右金額は、原告の昭和六二年一〇月期の確定申告書に記載された法人税額から控除される所得税額である。

<10> 所得金額 四二九万四四二六円

右金額は、前記<1>の金額から<2>ないし<7>の金額を控除し、<8>及び<9>の金額を加算した金額である。

<11> 法人税額 一二八万七七〇〇円

右金額は、前述<10>の所得金額に法人税法六六条(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に基づく税率を乗じて算出した金額である。

(2) 昭和六三年一〇月期

右事業年度の所得金額は四九九万四五八一円、法人税額は一四九万七一〇〇円であり、その算出経過は、次のとおりである。

<1> 売上金額 五四七三万五四一二円

右金額は、<2>の売上原価の金額一三五三万〇五九四円を比準同業者一八社の売上原価率二四・七二パーセントで除して算出した金額である。

<2> 売上原価 一三五三万〇五九四円

右金額は、被告が調査により把握した原告の材料仕入の金額であり、その内訳は別紙1のとおりである。

<3> 一般経費 二六二七万八四七一円

右金額は、<1>の売上金額五四七三万五四一二円に比準同業者一八社の一般経費率四八・〇一パーセントを乗じて算出した金額である。

<4> 役員報酬 八三七万円

右金額は、原告の昭和六三年一〇月期の確定申告書に添付された「第三期決算報告書」に記載された役員報酬の金額である。

<5> 建物附属設備に係る減価償却費 六万四九六八円

右金額は、原告の昭和六三年一〇月期の確定申告書に記載された建物附属設備に係る減価償却費の金額である。

<6> 地代家賃 一三九万〇一九五円

右金額は、原告の昭和六三年一〇月期の確定申告書に添付された「第三期決算報告書」に記載された地代家賃の金額である。

<7> 支払利息及び割引料 一一万三三一四円

右金額は、原告の昭和六三年一〇月期の確定申告書に添付された「第三期決算報告書」に記載された支払利息及び割引料の金額である。

<8> 受取利息 五七〇五円

右金額は、原告の昭和六三年一〇月期の確定申告書に添付された「第三期決算報告書」に記載された受取利息の金額である。

<9> 法人税額から控除される所得税額 一〇〇六円

右金額は、原告の昭和六三年一〇月期の確定申告書に記載された法人税額から控除される所得税額である。

<10> 所得金額 四九九万四五八一円

右金額は、前記<1>の金額から<2>ないし<7>の金額を控除し、<8>及び<9>の金額を加算した金額である。

<11> 法人税額 一四九万七一〇〇円

右金額は、前記<10>の所得金額に法人税法六六条に基づく税率を乗じて算出した金額である。

(3) 平成元年一〇月期

右事業年度の所得金額は九二七万五七七五円、法人税額は二九三万三六〇〇円であり、その算出経過は、次のとおりである。

<1> 売上金額 六九四九万〇七〇三円

右金額は、<2>の売上原価の金額一六八七万九二九二円を比準同業者一一社の売上原価率二四・二九パーセントで除して算出した金額である。

<2> 売上原価 一六八七万九二九二円

右金額は、被告が調査により把握し得た原告の材料仕入の金額であり、その内訳は別紙1のとおりである。

<3> 一般経費 三〇二四万九三〇三円

右金額は、<1>の売上金額六九四九万〇七〇三円に比準同業者一一社の一般経費率四三・五三パーセントを乗じて算出した金額である。

<4> 役員報酬 九六〇万円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に添付された「第四期決算報告書」に記載された役員報酬の金額である。

<5> 建物附属設備に係る減価償却費 三九万一六五三円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に記載された建物附属設備に係る減価償却費の金額である。

<6> 地代家賃 二七四万五〇〇〇円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に添付された「第四期決算報告書」に記載された地代家賃の金額である。

<7> 支払利息及び割引料 三三万五四三七円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に添付された「第四期決算報告書」に記載された支払利息及び割引料の金額である。

<8> 固定資産売却損 二万三四六三円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に添付された「第四期決算報告書」に記載された固定資産売却損の金額である。

<9> 受取利息 七三七六円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に添付された「第四期決算報告書」に記載された受取利息の金額である。

<10> 法人税額から控除される所得税額 一八四四円

右金額は、原告の平成元年一〇月期の確定申告書に記載された法人税額から控除される所得税額である。

<11> 所得金額 九二七万五七七五円

右金額は、前記<1>の金額から<2>ないし<8>の金額を控除し、<9>及び<10>の金額を加算した金額である。

<12> 法人税額 二九三万三六〇〇円

右金額は、前記<11>の所得金額に法人税法六六条に基づく税率を乗じて算出した金額である。

(原告の主張)

被告の主張は、争う。

(二) 推計の合理性

(被告の主張)

(1) 被告が原告の所得金額の算定に用いた推計方法は、被告が調査により把握した原告の材料仕入の額を売上原価として、これに比準同業者の売上原価率及び一般経費率を乗除して売上金額及び一般経費の額を算出し、売上金額から売上原価、一般経費の額及び一般経費以外の経費の額をそれぞれ控除し、右控除後の金額に受取利息及び法人税額から控除される所得税額を加算して、所得金額を算出するというものである。

右推計に用いた比準同業者は、原告が横浜市において木工家具製造業を営んでいることから、横浜市に事業所を有し、もっぱら木工家具製造業を営む法人事業者のうち、次の(一)ないし(四)のいずれの条件をも満たす法人を別紙2の1ないし3のとおり抽出した。

(一) 青色申告の承認を受けている法人

(二) 本件係争事業年度に相当する事業年度の材料費の金額が本件係争事業年度の原告の材料費の金額の半分以上二倍以下の範囲内である法人

なお、決算期が原告と異なる場合は、原告と事業年度を六か月以上同じくする事業年度を本件係争事業年度に相当する事業年度とする。

(三) 年を通じて木工家具製造業を継続して営んでいる法人

(四) 次の(1)及び(2)のいずれにも該当しない法人

(1) 災害等により経営状態が異常であると認められるもの

(2) 更正又は決定処分がされているもののうち、次のイ又はロに該当するもの

イ 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの

ロ 当該処分に対して不服申立てがされ又は訴えが提起されて現在審理中のもの

(2) 右のとおり、被告は、本件係争事業年度の所得金額を推計するに当たり、比準同業者として前記の各条件を満たす者を漏れなく抽出しており、そこに恣意の介在する余地はなく、また、原告と同じ木工家具製造業を営む事業者で、青色申告の承認を受けている者の売上原価率及び一般経費率に基づき算出された所得金額は、原告の現実の所得金額に近似した数値が得られているといえる。したがって、被告の推計には合理性が認められる。

(3) 原告の事業内容について

原告は、自らの事業内容は、被告が比準同業者抽出の基準とした「もっぱら木工家具製造業を営むもの」ではなく、「木工家具製造業及び室内外装飾業」であるとし、被告は、原告と事業内容の異なる者を比準同業者として抽出しているから、本件推計には合理性がないと主張する。

しかし、被告は、原告が主として木工家具製造業を営むものであり、他の事業を営んでいるとしても、その割合は小さいと判断したため、比準同業者の抽出基準を「もっぱら木工家具製造業を営むもの」としたものである。そして、原告は、法人税の確定申告書の事業種目欄に自らの事業内容を「木工家具製造業」と記載しており、このことは、原告が自らの事業内容を木工家具製造業と自認していたことを示すものである。このように、被告が主たる事業内容が原告と同一である者を比準同業者として抽出している以上、右抽出基準には合理性が認められ、従たる事業の内容についてまで厳格な同一性を要求すれば、比準同業者の抽出が困難となり、ひいては、推計による課税自体を否定することになりかねない。

また、原告は、原告の事業内容は、作業所で木工家具を製造、完成させるというものではなく、主にゼネコン等の注文を受け、作業所でカウンターや棚等を途中まで製作し、これをマンション等の建築現場に搬入して取付工事をするというもので、神奈川県知事からの内装仕上工事業として建設業の許可を受けており、事業の分類としては、内装仕上工事業のうちの家具工事業に当たると主張する。しかし、被告が、緑税務署管内において、法人税の確定申告書の事業種目欄に内装仕上工事業等と記載して申告している法人五社を無作為に抽出し、その事業内容を確認したところ、いずれも壁などのクロス張りをすることを主たる事業内容としており、木工家具の製造、取付けは一切していないことが判明した。したがって、内装仕上工事業として建設業の許可を受けている者が、原告と同種事業を営んでいるとはいえない。なお、建設業の許可は、書面審査であり、一年当たり一件以上の工事内容を記載した実務経験証明書に右工事内容に係る請求書の控え等を添付して提出すれば足りるものであるから、右許可に係る事業が、当該事業者の現実の事業内容と一致しているとは限らない。

また、いずれにせよ、原告の事業内容が家具工事業であるとすれば、家具の製造を行うという点では、被告が抽出基準とした「木工家具製造業」と実質的に事業内容が異ならないことになる。

そして、「木工家具製造業」には、完成品としての木工家具の製造業のみならず、取付用の木工家具の製造業も含まれるのであり、現に、被告が比準同業者とした法人のうち五社を無作為に抽出してその事業内容を確認したところ、うち四社が取付家具を製造しており、右四社中一社は、原告と同様に神奈川県知事から内装仕上工事業として建設業の許可を受けた者であった。確かに、被告の抽出基準によれば、取付家具の製造業者以外の法人も、若干は抽出の対象に含まれることになるが、被告が「木工家具製造業」という限定された範囲から比準同業者を抽出したことには、十分合理性が認められる。

(4) 事業規模の類似性について

原告は、被告が抽出した比準同業者は、売上金額の格差が、昭和六二年一〇月期が最大五・八倍、昭和六三年一〇月期が最大六・九倍、平成元年一〇月期が最大七・二倍に達しており、このように事業規模が著しく異なる事業者を比準同業者としてした推計には合理性がないと主張する。しかし、被告は、原告の取引先等の調査によって把握した材料費の金額を売上原価として、右金額に基づきいわゆる倍半基準により比準同業者を抽出し、その売上原価率から原告の売上金額を推計したものである。そして、倍半基準は事業規模の類似する同業者を抽出するための基準として一般に優れた合理性を有するものとされているから、右基準により機械的に抽出された比準同業者は、原告と事業規模の近似性を有するものといえる。また、比準同業者間で、売上原価、経費の金額がそれぞれ異なる以上、売上金額に原告が主張する程度の格差が生じることも予想されるところであり、その格差が極端に大きく、平均値による推計の合理性という観点から無視し得ない程度のものといえない以上、右推計方法が合理性を欠くとはいえない。

(5) 外注費を考慮しない推計方法について

原告は、神奈川県内において、内装仕上工事業として建設業の許可を受けている事業を独自に調査し、これらの業者と原告とでは、材料費の売上に占める比率がかなり異なるが、右比率に外注費の売上に占める比率を加えると、売上の約五割となり、原告に近似しており、この点が内装仕上工事業の特徴であるから、材料費と外注費の合計額を推計の基礎とすべきであると主張する。しかし、推計には選択可能な複数の方法が存し、そのいずれを選択するかは被告の裁量であって、材料費のみを基礎とする方法も選択可能な方法の一つであるから、これが直ちに不合理であるとはいえない。また、原告が右対比に用いた原告の売上金額等の一部は、原告が本件係争事業年度の決算報告書に記載した金額であり、まさに本件で争われている金額であるから、これを基礎とすること自体意味がない。また、原告の算出に係るこれらの業者の売上に占める材料費の割合の平均値は、二五・六三パーセントであり、被告の抽出した比準同業者の売上に占める材料費の割合の平均値(昭和六二年一〇月期二五・四四パーセント、昭和六三年一〇月期二四・七二パーセント、平成元年一〇月期二四・二九パーセント)と近似している。このことは、被告が推計の基礎とした数値の正確性、被告の推計の合理性を実証するものにほかならない。

(6) 一般経費の選択について

原告は、被告が推計に当たり、役員報酬の額等を個別性の強いものとして一般経費から除外し、実額で認定しながら、車両運搬具等の減価償却費や指定寄付金等を除外せずに、一括推計していることが恣意的であるとする。しかし、損金のうち、どの項目を推計の対象とするかは、顕著な特殊事情がない限り、被告の裁量に委ねられるところ、被告は、一般的に個別性の強いものを実額で認定し、原告の主張する右項目については、個別に考慮しなくても、推計の結果に及ぼす影響が少なく、原告に不利益とはならないと判断したため、一般経費に含め、推計の対象としたものである。原告の主張は、理由がない。

(7) 材料費について

原告は、被告が認定した株式会社鎌啓商事(以下「鎌啓商事」という。)からの材料仕入金額のうち、別紙一ないし三の第1ないし第3分類に属するものは、外注加工費に当たり、これを材料費とすることはできないと主張する。しかし、鎌啓商事は、右分類の材料に顧客の注文に応じて裁断等の加工をしたに過ぎず、その価額は加工賃を含むものではなく、原告に別途加工賃を請求しているわけでもない。したがって、これらの仕入金額は、材料費に含まれるものである。

また、原告は、別紙一ないし三の第4、第5分類に属する仕入金額は、小売に当たり、材料費とは性質が異なるとするが、これらに分類された製品は、いずれも、木工家具の部品、あるいは、その製作に用いる接着剤であり、材料にほかならないから、これらの仕入金額も材料費に含まれるものである。

そして、原告提出の総勘定元帳においても、材料仕入高と外注加工費は明確に区分されており、鎌啓商事からの材料の仕入金額は、すべて材料仕入高に計上されている。このことからも、原告の主張は理由がない。

(原告の主張)

(1) 原告の事業内容について

被告は、原告の事業内容が「もっぱら木工家具製造業を営むもの」、すなわち、主として木工家具を製造し、副次的に室内外装飾業ほかの事業を営むものであることを前提に、これと同種事業を営む者を比準同業者として抽出している。しかし、原告の本件係争事業年度の売上の合計一億三〇〇〇万円のうち、完成品としての家具の売上は、わずか一パーセントの一三〇万円に過ぎず、原告が木工家具の製造を主たる事業とするものでないことは明らかである。仮に、原告が家具製造業者であるとすれば、旧物品税法三条により、物品税の納税義務を課せられたはずであるが、原告はこれを納付したことはない。

原告の主たる事業は、ゼネコン等の建設業者の注文により、規格に合った材料を仕入れ、建築中のマンション等にカウンターや棚等の取付けを行うというものである。そして、原告は、右事業について一〇年以上にわたる実務経験を積んだことから、平成七年三月一〇日付けで神奈川県知事から内装仕上工事業として建設業の登録許可を受けている(許可番号神奈川県知事許可(般―六)第五六四九四号、有効期間平成七年三月九日から平成一二年三月八日まで)。また、原告の定款の目的は、「家具製造販売、室内外装飾業」となっている。

このように、原告の事業内容は、内装仕上工事業(室内外装飾業)のうちの家具工事業に当たり、被告が抽出基準とした「木工家具製造業」とは異なるものである。

被告は、原告が確定申告書の事業種目欄に「木工家具製造業」とのみ記載していることを根拠に原告が主として木工家具製造業を営むものであると主張する。しかし、一般に、確定申告書の事業種目欄は、事業の実態に即した正確な記載がされるものではなく、原告も、法人化する前は、「木工家具取付工事」と記載していたが、法人化した後、原告の妻が「木工家具製造」と書き入れたに過ぎず、原告が木工家具製造業者であることを自認してそのような記載をしたものではない。

被告は、木工家具製造業と木工家具工事業とは業種が異ならないとするが、家具工事業は、室内外装飾業の一種であり、木工家具製造業とは異なる。日本標準産業分類においても、室内装飾工事業と木製家具製造業は別個の分類とされている。

また、被告は、被告の管内において、確定申告書の事業種目欄に内装工事業等と記載している法人五社を抽出したところ、いずれも、壁のクロス張り等を主な事業内容とするもので、原告の事業内容とは異なることが認められたとする。しかし、原告の事業内容は、内装仕上工事業のうちの家具工事業であるから、家具工事業を行うものを比準同業者として抽出すればよいのであり、右事実から、内装仕上工事業は、原告の事業とは異なる業種であるとはいえない。そして、家具工事業を営む者は多数存在するから、その抽出が困難であるとはいえない。

さらに、被告は、比準同業者とした四〇社の中から無作為に五社を抽出したところ、そのうち四社は取付家具の製造を行っていたとする。しかし、取付家具の製造を行っている者を四社しか抽出できなかったということは、被告が比準同業者とした者の大部分は、家具の取付工事を行っていないことを示すものである。また、仮に被告の抽出した業者が家具の取付工事を行う者であるとしても、これを主たる事業とする者ではないから、いずれにせよ、原告と事業内容が異なることに変わりはない。

(2) 事業規模の類似性について

被告が抽出した比準同業者間の売上金額の格差は、昭和六二年一〇月期が最大五・八倍、昭和六三年一〇月期が最大六・九倍、平成元年一〇月期が最大七・二倍であり、被告は、このように事業規模の著しく異なる者を比準同業者として抽出しているから、本件推計には合理性がない。

被告は、売上原価が倍半基準の範囲内にある者を比準同業者として抽出している以上、これらの業者は、原告と事業規模が類似するといえるとする。しかし、売上に占める仕入の割合が高く、利益に大きな差が生じない業種は別として、本件比準同業者のように、売上原価率が二五パーセント前後と低く、したがって、付価価値率が高く、業者によって利益に大きな差が生じる場合には、売上原価が倍半基準の範囲内にあるからといって、事業規模が近似しているということはできない。

(3) 外注費を考慮しない推計方法について

別紙の表1「七五三木木工所製造原価比較表」は、原告が確定申告に際し、被告に提出した決算報告書に基づき、売上金額、材料費、外注費等を一覧表にしたものであるが、これによると、昭和六二年一〇月期から平成八年一〇月期までの原告の売上金額に占める材料費の割合の平均は、三三・九四パーセントであり、被告が推計の基礎とした材料費の割合とはかなり異なる。また、外注加工費は各決算期によって金額にばらつきがあり、売上金額に占める割合もまちまちである。別紙の表2「内装仕上工事業者の製造原価比較表」は、神奈川県内の建設業登録業者のうち、木工関係の内装仕上工事業として建設業許可(変更)届を提出している八社を、原告が、神奈川県土木部検査指導課において関係資料を閲覧の上、抽出したものである。これによると、売上金額に占める材料費の割合、外注費の割合は、それぞれ業者によってまちまちであるが、材料費と外注費を合計した金額が、売上金額のほぼ半分を占めるという特徴がみられる。

このように、木工関係の内装仕上工事業者は、外注加工を多用する者とそうでない者とに分かれるが、材料費と外注費の合計額が売上金額のほぼ五割を占めるという特徴がみられ、材料費のみの金額と売上金額との間には相関関係は認められない。したがって、被告が材料費のみを基礎に原告の売上金額を推計したことには、合理性がない。

(4) 一般経費の選択の恣意性

被告は、本件推計に当たり、納税者によって個別性の強いことを理由に、役員報酬の額等を一般経費から除外しているが、個別性が強いという点では車両運搬具及び機械装置の減価償却費、繰延資産の償却額、指定寄付金も同様である。特に、原告は、昭和六〇年一一月一一日に設立された法人であり、本件は、昭和六一年一一月以降の事業年度分の調査であるから、繰延資産(創業費)の償却は最も個別性が強く、また、昭和六三年一〇月期の指定寄付金についても、原告が特に依頼を受けて消防自動車の購入資金として寄付をしたものであり、個別に考慮されるべきである。このように、被告のした一般経費の選択は恣意的であり、合理性がない。

(5) 材料費について

被告が主張する鎌啓商事からの材料仕入には、外注加工費や小売に属するものが含まれている。すなわち、原告に係る鎌啓商事の得意先元帳の商品名欄の記載内容を分類すると、別紙一ないし三の第1ないし第5分類のとおりであるが、第1ないし第3分類は外注加工費に、第4、第5分類は既製品を購入してそのまま販売したもので、いわゆる小売に属するものであり、これらを材料費に含めることはできない。このように、本来材料費に含まれないものまで一括して材料費とし、これを基礎とした被告の推計には合理性がない。

5  本件更正及び賦課決定の適法性

(被告の主張)

被告が本訴において主張する原告の本件係争事業年度の所得金額は、前記4(一)の(1)ないし(3)のとおり、それぞれ

昭和六二年一〇月期 四二九万四四二六円

昭和六三年一〇月期 四九九万四五八一円

平成元年一〇月期 九二七万五七七五円

であるところ、本件更正にかかる所得金額は、別表二の一ないし三記載のとおり、それぞれ

昭和六二年一〇月期 四〇七万〇七九三円

昭和六三年一〇月期 四三八万五五四八円

平成元年一〇月期 七八七万一九六八円

であって、いずれの事業年度も被告が本訴で主張する所得の金額の範囲内であるから、本件更正は適法である。

被告は、別紙二の一ないし三記載のとおり本件更正により原告が新たに納付すべき法人税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)

昭和六二年一〇月期 一二二万〇五〇〇円

昭和六三年一〇月期 一三一万四四〇〇円

平成元年一〇月期 二三五万九四〇〇円

を基礎として国税通則法六五条一項、二項により算定した過少申告加算税額

昭和六二年一〇月期 一四万円

昭和六三年一〇月期 七万〇五〇〇円

平成元年一〇月期 二三万九五〇〇円

をそれぞれ賦課決定したものであるから、本件決定はいずれも適法である。

(原告の主張)

被告の主張は争う。

6  実額反証

(原告の主張)

原告の昭和六二年一〇月期から平成元年一〇月期までの売上の実額は、別紙「得意先売り上げ一覧表」のとおり昭和六二年一〇月期が二九〇八万九六九〇円、昭和六三年一〇月期が四二二七万一七六〇円、平成元年一〇月期が五七八五万四四九〇円である。なお、決算書の申告額(昭和六二年一〇月期が二八八〇万四二九〇円、昭和六三年一〇月期が四二〇二万四五二〇円、平成元年一〇月期が五六六二万一六〇〇円)には、一部誤りがあったため、本訴では訂正後の金額を売上の実額として主張する。

被告は、原告が主張する金額が売上のすべてであることを立証するためには、原告の提出した総勘定元帳、請求書、領収書の控え等の帳簿書類だけでは不十分であると主張するが、これらに若干不完全な部分があるとしても、金額、件数ともわずかであるから、実額の立証としては十分であるというべきである。

(被告の主張)

課税処分取消訴訟において、納税者が所得の実額を主張し、推計課税に係る所得金額が右実額と異なるとして当該推計が違法とされるためには、単に実額につきその存在を推測させるに足りる事実を立証するのみでは足りず、その主張に係る実額と真実の所得が合致することを合理的な疑いを容れない程度に立証する必要があるというべきである。ところで、法人税法上、各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とされるところ、原告が実額主張をする場合、その主張する売上金額が本件係争事業年度における取引から生じた益金の額に算入されるべき収益額のすべてであること、その主張する費用の実額を実際に支出したことあるいはそれが支出すべき損金の額に算入される売上原価又は費用のすべてであることに加え、売上原価については、売上金額に直接的個別的に対応するものであること、販売費及び一般管理費については、それが収益額に期間的に対応するものであることを合理的な疑いを容れない程度に立証しなければならないというべきである。

そして、右立証のためには、当該事業年度の収入及び支出のすべてを漏らさず記載した会計帳簿の存在が不可欠であり、売上については、その金額を継続して個別・具体的に記載した売上帳等が、現金出納帳等と突き合わされ、請求書や領収書の控えなどの原始記録と照合されることを要し、売上原価等についても、仕入帳等により費用と収益の対応関係が明らかにされることを要するというべきである。しかるに、原告は、売上について実額の主張立証をするのみで、材料費以外の売上原価及び経費の額については、何らの主張立証をしない。また、売上についても、総勘定元帳等のほかに、請求書、領収書等の原始資料を提出するのみで、現金出納帳、売上帳及び仕入帳等の帳簿書類を提出していない。仮に総勘定元帳の現金勘定が現金出納帳に替わりうるとしても、その記載内容において、日々の入出金を個別に記載した現金出納帳と同程度の正確性が担保されているとはいえない。また、材料費に関し、原告は、仕入先である鎌啓商事の得意先元帳を提出しているが、売上とその原価との対応関係を明らかにするためには、材料等の仕入明細を記載した補助記入帳である売上帳が不可欠であり、得意先元帳を提出するのみでは、原告主張の売上とその原価との対応関係を合理的な疑いを容れない程度に立証したとはいえない。さらに、原告が売上に関する証拠として提出した書証についても、領収書の控えに対応する請求書の控えのないものなどが多数存する。

このように、原告の実額の立証は不十分であり、それが真実の所得金額に合致することが合理的な疑いを容れない程度にまで立証されたとは到底いえない。

7  更正の理由付記の違法性

(原告の主張)

被告のした本件更正には、税額等の記載があるだけで、具体的な更正の理由の記載がない。法人税法一三〇条二項は青色申告者に対する更正の場合について理由付記を規定しており、青色申告の承認が取り消された場合については明文の規定はないものの、憲法三一条の適正手続の保障の趣旨からすれば、右の場合にも更正の理由を付記すべきであり、本件更正は違法である。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

第三争点に対する判断

一  調査手続の違法性について

1  本件調査の経緯

証拠(甲一八号証、二五号証、五二号証、六一号証、乙八号証、証人西坂伸行、同岩館利隆の各証言、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨)によれば、本件調査の経緯について以下の事実が認められる。

(一) 原告は、肩書住所地に原告代表者の自宅兼事業所を有する有限会社であり、青色申告の証人を受けた法人事業者であった。

被告係官である国税調査官西坂伸行(以下「西坂係官」という。)は、被告係官である国税調査官池田博之(以下「池田係官」という。)とともに、上司である統括官の金田良穂から、原告が設立された昭和六〇年一一月以降、原告に対する法人税の調査を行っていないことから、その申告の適否を確認するため調査を行うよう命じられた。そこで、西坂係官は、昭和六一年一〇月期から昭和六三年一〇月期までの事業年度を対象期間として、原告に対する法人税の調査を行うこととし、平成元年二月一七日午前一〇時二〇分ころ、事前に通知をせずに、池田係官とともに原告の事業所に臨場した。西坂係官は、対応に出た原告代表者に対し法人税調査のため来訪した旨告げ、調査に協力するよう依頼した。しかし、原告代表者はこれから出かけるところであるといってあわただしく身支度を始めたので、西坂係官が事業所の概況等につき簡単な質問をし、いつなら調査に応じてもらえるのかを尋ねたところ、原告代表者は、取引先の都合を聞いた上でないと決められないと返答した。そこで、西坂係官は、原告代表者に翌日、都合のよい日程を連絡するよう伝え、約一五分でその場を辞去した。

(二) その翌日である同月一八日、原告代表者から西坂係官に、同月二四日であれば皆の都合がよいので、調査してほしいとの電話連絡があったが、その日は祝日であることから、西坂係官は、ほかの日を指定してほしいと申し入れ、後日、原告代表者から西坂係官に都合のよい日を連絡することとなった。この電話のやりとりの中で、西坂係官が原告代表者に対し、調査の際には、調査に関係のない第三者の立会いは認められない旨説明したところ、原告代表者はこれに反発し、一方的に電話を切った。

平成元年三月一七日に、原告代表者から西坂係官に電話連絡があり、調査の日程を打ち合わせた結果、四月一一日午後一時に原告代表者の自宅に調査に赴くことに決まった。このときも、西坂係官が原告代表者に対し、調査に関係のない第三者の立会いは認められない旨説明したが、原告代表者は、「当日、会ってから話す。」などといって、納得しない様子であった。

(三) 西坂係官は、約束の日時である平成元年四月一一日午後一時に、池田係官とともに、原告代表者宅に臨場し、事業所の二階の居間に案内された。そこには、原告代表者夫婦のほかに、原告代表者から立会いを依頼された横浜緑民主商工会の事務局長である岩館利隆、市議会議員の大貫憲夫、その他民主商工会の会員三名が同席していた。西坂係官は、原告代表者に対し、法人税の調査に赴いた旨告げ、取引先の守秘義務があるので、調査に関係のない第三者を退席させるよう求めたところ、原告代表者は、「取引先の秘密などない。俺がいいといっているからいいんだ。」といって、これに応じなかった。そして、原告代表者は、西坂係官に対し、調査理由を明らかにするよう求めたため、西坂係官は、原告の設立以来、法人税の調査を行っていないことから、所得金額の確認のため来訪した旨告げた。すると、原告代表者は、それでは理由にならない、数日前、日商ビジネスリサーチの社員が取引先から調査を依頼されたと称して来訪したが、右会社から税務署の方に何か話がいったのではないかなどといって、西坂係官の説明に納得しなかった。同席していた他の者らも調査理由を明らかにするよう求めた。西坂係官らは、原告代表者の示した右社員の名刺を見て、右会社の住所を控えるなどしたが、全く関係がないので、自分たちを信用してもらうしかないといって、なおも帳簿を見れないので、第三者を退席させるよう求めた。しかし、原告代表者は、これに応ぜず、「帳簿ならここにある。」といって、総勘定元帳の表紙を開いてみせるなどした。

しかし、西坂係官は、第三者が同席したままでは帳簿書類の調査を行えないといって、原告代表者に対する説得を続けたが、原告代表者はとり合わず、このようなやりとりが三〇分近く続いた。そのため、西坂係官は、当日の調査の続行は不可能であると判断し、次回の調査日を決めるよう申し入れたところ、原告代表者は、「もう調査には応じない。このままでは平行線だから何度来ても拒否する。もう会わない。」などと返答した。そこで、西坂係官らが、原告代表者に対し、このまま調査を受けないことになると、帳簿書類等の提出がなかったものとみなし、青色申告承認取消しの要件に当たること、このままでは調査が進まないので、税務署独自の調査を行うこととを告げたところ、原告代表者は、「勝手にどうぞ。審判所でお会いしましょう。」などといった。そこで、西坂係官らは、調査の続行は困難であると判断し、やむなく、その場を辞去した。

原告代表者は、西坂係官らがその場を退去しようとする際も、一階の作業所にいた従業員に対し、「これから二人が降りていくが、何も話すな。」などと大声で指示していた。

なお、証人岩館利隆、原告代表者は、前記西坂係官とのやりとりの際、原告代表者の傍らには帳簿書類を入れたダンボール箱が置いてあり、原告代表者は昭和六二年一〇月期の総勘定元帳の売上の部分を西坂係官に示したと供述し、甲二五号証にもこれに副う記載がある。しかし、証人西坂伸行は、原告代表者の傍らにはダンボール箱が置いてあったが、ガムテープで封がしてあったとし、総勘定元帳についても、原告代表者は表紙の裏側を見せたに過ぎないと供述していること、証人岩館利隆、原告代表者も、本件調査に応ずるというより、消費税の調査が目的かどうかを尋ねるために、総勘定元帳を示したものであると供述していることなどからすれば、前記証人等の供述は直ちに採用することができず、右帳簿書類が、西坂係官らがその内容を容易に確認しうるような状態で置かれていたとはにわかに認められない。

(四) 西坂係官らは、その後、原告取引先等の調査を行っていたが、調査がある程度進んだ段階で、上司から原告が帳簿書類の提出に応じるかどうか再度確認するよう指示され、また、平成元年一二月二〇日、原告から平成元年一〇月期の確定申告書が提出されたことから、平成二年二月二八日午前九時一五分ころ、事前の通知なしに原告の事業所に臨場した。そして、西坂係官は、仕事の出がけに対応した原告代表者に対し、帳簿書類の提示に応じる意向があるかどうか尋ねたところ、原告代表者は、「いまさら何を言っているんだ。やるだけやっておいて帳簿を見せろとはなんだ。」などといって、これに応じる態度を示さなかった。そこで、西坂係官は、帳簿書類を提示しない場合、青色申告の承認の取消事由に該当する旨告げたが、原告代表者はとり合わず、大声で「更正でも何でもしろ、異議を出す。」といってあわただしく事業所を出ていった。なお、このとき、西坂係官は、原告代表者に対し、平成元年一〇月期も調査の対象期間に加える旨を伝えたところ、原告代表者は、「そうだろうな。」といっていた。

右の経過により、西坂係官らは、約二〇分ほどで、やむなくその場を辞去した。

(五) 以上のとおり認められ、甲二五号証、六一号証、証人岩館利隆及び原告代表者の供述中、右認定に反する部分はにわかに採用し得ない。

2  調査の必要性の欠如

原告は、本件調査は、調査の必要性がないにもかかわらず、民主商工会の会員である原告に対する弾圧の意図でされたものであり、違法であると主張する。そして、証拠(甲二五、二六号証、甲二七号証の一ないし一三、二八、二九号証、三七ないし三九号証、四五、四六号証、四八号証、四九号証の一、二、証人西坂伸行、同岩館利隆の各証言、弁論の全趣旨)によれば、神奈川県内の民主商工会の会員に対する税務調査(法人税調査を含めて)において、事実上、第三者の立会いを認めるなどの扱いがされた事例がある程度存したこと、東京国税局が「昭和六一事務年度留意事項」などにより、納税非協力者に対する調査の徹底、第三者の立会い排除、反面調査の早期着手等の方針を打ち出したこと、昭和六三年ころから、民主商工会の会員に対する調査について、第三者の立会い拒否や反面調査の実施件数等が増加し、更正処分の件数も増加していること、原告は、横浜緑民主商工会の会員であり、西坂係官は、本件調査の際、あらかじめこのことを知っていたこと、本件調査に先立ち原告のした確定申告には、格別容疑のある点は存しなかったことが認められる。しかしながら、法人税法一五三条の調査については、後述のように、その必要性、第三者の立会い等に関し、税務職員に相当程度の裁量が認められていること、弁論の全趣旨によれば、原告に対しては、設立以来、法人税の調査が行われていなかったことが認められることからすれば、前記認定の事実から直ちに、被告が民主商工会弾圧の目的で、ことさら原告に対する調査を行ったとまで推認することはできず、他に本件調査がもっぱらこのような意図で行われたことを認めるに足りる証拠はない。

そして、法人税法一五三条の「調査について必要があるとき」とは、確定申告後に行われる法人税に関する調査については、過少申告等の疑いがある場合のみならず、当初からそのような疑いが明らかではないが、申告の真実性、正確性を確認する必要がある場合も含まれると解すべきところ、前記認定のとおり、被告は、原告の設立以来法人税の調査を行っていなかったことから、その申告の適否を確認するため調査を行うこととしたことが認められる。したがって、本件調査が直ちにその必要性を欠くものであったということはできない。

3  調査理由の不開示

原告は、本件調査に際し、西坂係官が具体的な調査理由を告げなかったことが違法であると主張する。しかしながら、法人税法一五三条は、質問検査権の行使に際し調査の具体的理由を開示すべきことを要件としておらず、他にこれを要求する規定はないから、調査理由を開示するかどうか及びその程度は、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているというべきである。したがって、西坂係官が、本件調査に際し、前記認定の理由以外、原告が法人税の調査対象に選定された具体的理由を告げなかったからといって、右措置が違法であるということはできない。

4  事前通知の欠如

原告は、本件調査に際し、事前の通知がなかったことが違法であると主張し、西坂係官らが平成元年二月一七日及び平成二年二月二八日に、事前の通知をせずに原告の事業所に臨場したことは、前記認定のとおりである。しかしながら、税務調査に際し、納税者に事前通知をすべきことを定めた規定はなく、法人税法一五三条の質問検査をどのような方法で行うかは、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているというべきであるから、右措置が直ちに違法であるとはいえない。

5  第三者の立会い拒否

平成元年四月一一日の調査の際、西坂係官が、原告代表者夫婦以外の立会人の退席を求めたが、原告代表者がこれに応じなかったことは前記認定のとおりである。ところで、第三者の立会いについては、税理士の立会いに関する税理士法三四条以外に格別の規定がないこと、税務調査の内容が納税者のみならず、取引の相手方の営業上の秘密に及ぶこともあり、守秘義務のない第三者の立会いを認めると、公務員として秘密の保持を図り得なくなるおそれがあることからすれば、税理士以外の第三者の立会いを認めるか否かは、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているというべきである。したがって、西坂係官が原告代表者に対し、調査に関係のない第三者の退席を求めたことが直ちに違法であるとはいえない。原告は、前記調査の際、原告代表者が帳簿書類を準備してその一部を西坂係官に示そうとしたにもかかわらず、同係官は第三者の立会いのみを理由に調査を打ち切ったとする。しかしながら、右の際、西坂係官が帳簿書類の内容を確認し得る状況になかったことは前記認定のとおりである。

また、原告は、被告が青色申告会等他の団体に加入する納税者に対し調査を行う場合には、第三者の立会いを認めており、原告が民主商工会の会員であることから、ことさら不平等な取扱いをしたと主張する。昭和六三年ころから、神奈川県内の民主商工会の会員に対する税務調査について第三者の立会いが拒否される件数が増加していることは前記認定のとおりであるが、他の団体に加入する納税者の調査については第三者の立会いが認められていることを認めるべき証拠はなく、他に被告が本件調査に際し、原告が民主商工会の会員であることを理由に、ことさら第三者の立会いを認めない扱いをしたものであることを認めるに足りる証拠はない。原告の主張は、理由がない。

6  反面調査の違法性

原告は、被告は原告の平成元年一〇月期分の所得について、事前調査を経ずに直ちに反面調査を行っているから、右調査は違法であると主張する。そして、被告は当初、昭和六一年一〇月期から昭和六三年一〇月期までの事業年度を調査の対象としていたが、平成元年四月一一日の臨場調査の後に、平成元年一〇月期分を新たに調査対象に加え、調査対象期間を昭和六二年一〇月期から平成元年一〇月期までとしたことは前記認定のとおりである。しかしながら、反面調査に関する法人税法一五四条は、調査の時期、順序、方法について特に規定していないから、これらは、もっぱら税務職員の裁量に委ねられているというべきである。もっとも、証拠(甲三六、三七号証)によれば、昭和五一年度税務運営方針は、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととし、東京国税局の「昭和六一事務年度留意事項」は、原則として二、三回の臨場調査を行っても調査忌避等により調査の進展をはかり得ない場合に反面調査を行うこととしていることが認められる。しかし、これはあくまで指針というべきもので、法令ではなく、また、被告は、平成元年四月一一日の臨場調査の後、原告から平成元年一〇月期分の確定申告書が提出されたことから、右年度分を加え、調査対象期間を昭和六二年一〇月期から平成元年一〇月期までとしたこと、西坂係官は、平成二年二月二八日に原告に臨場した際、その旨原告代表者に告げ、原告代表者もこれを承知していたことは前記認定のとおりである。そして、原告代表者が、それまで調査に非協力的な態度に終始しており、右臨場の際に、平成元年一〇月期分の所得については、特に調査に応じる態度を示したことなども認められないことからすれば、平成元年一〇月期分の所得についての反面調査が直ちに違法であるということはできない。

7  以上によれば、本件調査手続が違法であるとの原告の主張は、いずれも理由がない。

二  推計の必要性について

法人税の課税は、もとより真実の所得金額(実額)を課税標準としてするのが原則であり、法人税の更正も、原則として実額調査によるべきである。しかし、納税義務者が調査に応じないなど、実額調査ができない場合にこれを理由に課税をしないことは、租税負担公平の原則に反するから、このような場合には、実額調査による課税に替えて推計による課税が認められる。そして、前記認定のとおり、原告代表者は、平成元年四月一一日の臨場調査の際、西坂係官が再三にわたり調査に関係のない第三者の退席を求めたにもかかわらず、具体的な調査理由の開示を求めるなどしてこれに応ぜず、以後の調査にも応じない意向を明らかにしていたのであり、平成二年二月二八日、西坂係官が原告の事業所に臨場し、帳簿書類の提示を求めた際も、これに応じなかった。このように、原告代表者が、調査に非協力的な態度に終始していたことからすれば、実質的な臨場調査が、平成元年四月一一日の一回しか行われていないことを考慮しても、被告が本件係争事業年度の原告の所得を実額で把握することは困難であったといわざるを得ない。

したがって、被告がこれを推計により算出する必要性があったというべきである。

原告は、平成元年四月一一日の臨場調査の際、帳簿書類を準備しており、その一部を西坂係官に示そうとしたが、西坂係官はこれを見ようとせず、調査を打ち切ったとする。しかし、帳簿書類はダンボール箱に入れられるなどしており、その内容を容易に確認しうる状況にはなかったこと、原告代表者は、帳簿書類の確認に応ずる意図でその一部を示そうとしたものではないことは前記認定のとおりである。また、立会人が終始、同席している状況で、西坂係官が原告代表者に帳簿書類の提示を求めることは困難であったというべきである。

そして、原告代表者が終始調査に非協力的な態度をとり続けていたことからすれば、後に調査対象に加えられた平成元年一〇月期分の所得についても、原告代表者が特に調査に応ずる意向を示したなどの事情が認められない以上、推計の必要性がなかったということはできない。原告の主張は理由がない。

三  青色申告承認取消しの効力について

法人税法一二七条一項一号は、帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法一二六条一項の規定する大蔵省令の定めるところに従って行われていないことを青色申告の承認の取消事由としている。そして、青色申告制度は、申告の基礎となる法人の帳簿書類の正確さに対する信頼を基礎とし、青色申告者に特典を与えるものであるから、同号の取消事由には、質問検査の結果、当該法人が大蔵省令に従った帳簿書類の備付け等を行っていないことが判明した場合のみならず、当該法人が正当な理由なく帳簿書類の提示に応じないなど、税務職員において、帳簿書類の備付け等が法令の定めに従って行われているかどうかを確認することができなかった場合も含まれると解すべきである。

本件において、原告が、調査に非協力的な態度に終始したため、西坂係官らにおいて、帳簿書類の提示を受けられず、法令に従った帳簿書類の備付け、記録等がされているかどうかを確認し得なかったことは、前記認定のとおりであり、西坂係官らにおいて、帳簿書類の確認のため、社会通念上、当然に要求される程度の努力を怠ったとはいえない。したがって、原告は正当な理由なく帳簿書類を提示しなかったというべきであり、法人税法一二七条一項一号に該当するから、被告による原告の青色申告承認の取消処分は適法である。この点に関する原告の主張は理由がない。

四  推計の合理性について

証拠(甲一号証の一ないし三、乙一ないし七号証の各一ないし四、証人西坂伸行、同天野修二の各証言、弁論の全趣旨)によれば、本件係争事業年度の原告の所得について被告がした推計方法は、以下のとおりと認められる。

被告は、法人税の調査につき原告の協力を得られなかったことから、原告の仕入先である鎌啓商事及び吉田金物店こと吉田達雄に対する反面調査を行い、別紙1のとおり材料の仕入金額を、昭和六二年一〇月期が一〇八一万八九四二円、昭和六三年一〇月期が一三五三万〇五九四円、平成元年一〇月期が一六八七万九二九二円と算定した。

被告のほか、横浜中、同南、保土ヶ谷、戸塚、神奈川及び鶴見の各税務署長は、それぞれ、東京国税局長から平成五年六月二日付け「税務訴訟に関する資料の作成及び報告について(通達)」と題する書面により、本件係争事業年度を対象年度として、右の各税務署管内に事業所を有し、もっぱら木工家具製造業を営む者で、前記第二、二、4、(二)、(1)の(一)ないし(四)の基準に該当する比準同業者の課税事績を報告するよう求められた。

被告は、右通達に従い、業種別分類表(被告の管内を納税地とする法人を、設立時等に、定款の目的、事業概況書の事業種目欄の記載等により業種別に分類した内部資料)において、家具製造業に分類される法人のうち、当該法人の確定申告書の事業種目欄、事業概況書の材料の品名、棚卸明細書の棚卸しの商品名等を参考に、主として、木工家具製造業を営むもの、すなわち、木材等の材料を仕入れ、机、タンスなどの木工家具を製造することを主たる事業内容とするもので、前記基準に該当するものを抽出し、その売上金額、売上原価、一般経費等を記載した課税事績報告書を作成した。被告以外の前記各税務署長も、概ね同様の方法で比準同業者を抽出し、同様の課税事績報告書を作成した。これらの報告書に基づき、被告が抽出した比準同業者は、別紙2の1ないし3のとおりである。

そして、被告は、本件係争事業年度における原告の材料仕入金額を売上原価とし、これを、右の方法により抽出した比準同業者の売上金額に占める材料仕入金額(売上原価)の割合の平均値(売上原価率)で除した金額を原告の売上金額とし、右金額に、比準同業者の売上金額に占める一般経費の割合の平均値(一般経費率)を乗じて原告の一般経費の額とした。そして、前記第二、二、4、(一)のとおりの方法により、原告の所得金額を算出した。

このように、被告の採用した推計方法が同業者率によるものである以上、右の推計方法に合理性が認められるためには、被告が抽出した比準同業者がその事業内容において、原告と同一性を有すること(業種の同一性)が、基礎的条件というべきである。

ところで、証拠(甲二号証の一ないし三、四号証、五号証の一ないし六、六号証の一ないし五、七号証の一ないし一七、八号証の一ないし一三、九号証の一ないし三一、一〇号証の一ないし二七、一一号証の一ないし七、一二号証の一ないし一六、一三号証の一ないし一四、一四ないし一六号証の各一、二、一七号証、一九号証、二〇号証の一ないし九、二一ないし二四号証、三〇号証の一ないし一九、三一号証の一、二、五〇、五一号証、五七号証、五八号証の一ないし八、六一号証、乙九号証、証人三澤秀清の証言、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨)によれば、原告の事業内容について、以下の事実が認められる。

原告代表者は、職業訓練校の木工科を卒業した後、主にタンスなど特別注文の家具の製造を業とする山口木材工芸株式会社に約三年間勤務する傍ら、職業訓練大学校の通信教育で木材加工学を学び、その後、病院や研究室用の実験台等の製造を業とする田倉製作所に約一〇年間勤務した。そして、昭和五二年ころ、独立して、従業員二、三名で個人営業を始め、昭和六〇年一一月に有限会社七五三木木工所を設立した。従業員数は、従前とほぼ同様である。

原告代表者は、個人で営業を始めた当初は、主に店舗用の棚などの取付工事を行っており、そのほかに、机やタンスなどの木工家具の製造も行っていたが、本件係争事業年度のころは、原告は、このような完成品としての木工家具を製造する割合は、売上のごくわずかとなり、マンション、事務所用ビル等の建築工事に際し、建設業者等の注文に応じ、棚やカウンター、洗面台、下駄箱等の取付工事を行うことを主な事業内容とするようになった。すなわち、本件係争事業年度において、三四件あった原告の取引先(受注先)のほとんどは、建設業者(殊にいわゆるゼネコン業者)ないし内装工事業者であり、原告の主な事業内容は、マンション等の建築工事に際し、これらの取引先からの注文により、前述のような取付家具の寸法、規格を定めた施工図を作成するなどして、鎌啓商事等の仕入先から右寸法、規格に従った材料を仕入れ、建築現場に搬入して取付工事を行うというものであった。

原告は、取付家具の材料のうち、木材など裁断を要するものについては、仕入先に裁断を依頼し、コーリアンと呼ばれる人工大理石や、木片を組み合わせてつくる集木材のように、特殊な加工を要するものについては、仕入先に規格に従った加工を依頼して、加工済みのものを仕入れ、洗面台やカウンターのようにあらかじめ規格が定まっており、加工を要しないものについては、そのままのかたちで仕入れ、これらを建築現場に搬入して、取付工事を行っていた。

そして、原告は、平成七年二月六日、原告代表者を専任技術者として、昭和五四年四月以降一〇年以上にわたり右のような家具工事、内装工事の実務経験を積んだとして、神奈川県知事に対し、建設業許可申請をしたところ、同知事は、平成七年三月一〇日付けで、原告に対し、建設業の種類を内装仕上工事業(インテリア工事、壁はり工事、内装間仕切り工事、床仕上工事、家具工事、防音工事等が含まれる。)とする一般建設業の許可(許可番号神奈川県知事許可(般―六)第五六四九六号、許可の有効期間平成七年三月九日から平成一二年三月八日まで)を与えた。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告の事業内容は、主として、ゼネコン等の建設業者の注文により、建築中の集合住宅等に家具の取付工事(作り付けの家具となる。)を行うというもので、右許可の観点から見ると、いわゆる内装仕上工事業の一種である(木製)家具工事業に当たるものと認められる。しかるに、被告が比準同業者の抽出基準とした事業内容は、前記認定のとおり、主として、木材等の材料を加工して、机、タンスなどの木工家具の製造を行うというものであるから、それは、原告の事業内容とは業種が異なるというべきである。

また、証拠(甲五七号証、証人天野修二、同三澤秀清の各証言、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨)によれば、被告が、比準同業者を抽出する際に参考にした内部資料である業種別分類表には、被告が基準とした「家具製造業」という分類のほかに、「職別工事」として内装工事に関する分類があること、国税庁が税務上の業務分類の参考資料としている日本標準産業分類(総務庁統計局統計基準部編集)にも、タンス、鏡台、和机、食卓、座卓、水屋、客間及び居間に用いる洋家具等を製造する事業所として、「木製家具製造業」という分類があるほかに、「職別工事業」の一つとして「その他の職別工事業」の中に、主として木製家具の取付工事のみを行う事業所として「木製建具工事業」という分類があること(なお、ここでは「内装工事業」は、建物等の装飾工事を行うものとして、別の事業に分類されている。)、原告と同様に、木製家具の取付工事をする業者は、神奈川県内にも少なからず存し、関係業者の間では、これらの業者は、タンスや机などの完成品の家具を製造する業者とは、業種が異なるものとされ、「木工屋さん」と呼ばれていることが認められる。

このように、原告の営む木製家具(建具)工事業は、被告が抽出基準とした木工家具製造業とは、明らかに、その事業内容、業種の分類を異にするものというべきであり、また、原告の事業が特殊なものではなく、同種事業を営む者も少なからず存する以上、被告が、「もっぱら木工家具製造業を営むもの」を基準として、比準同業者を抽出したことには、合理性がないといわざるを得ない。

被告は、原告の確定申告書の事業種目欄の記載から、原告の事業内容を主として木工家具製造業を営む者と把握したもので、このように限定された範囲の中から比準同業者を抽出したことには合理性が認められるとする。そして、甲一号証の一ないし三によれば、本件係争事業年度の原告の確定申告書の事業種目欄には、「木工製品家具製造」と記載されていることが認められる。しかしながら、確定申告に際し、事業種目欄をどのように記載するかによって、所得金額や税額に違いをきたすものではないから、一般に、確定申告をする法人が、右欄に自らの事業内容をその実態に即して正確に記載するとは限らない。そして、証拠(甲五三号証の一、二、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨)によれば、昭和五九年分、昭和六〇年分の原告代表者個人の所得税の確定申告書には、その職業欄に「木工(木製)家具製造取付工事」と記載されていたこと、原告代表者は、原告が有限会社となった後は、確定申告書の事業種目欄の記載を妻に委ねており、本件係争事業年度についても、原告代表者の妻が適宜記入したものであること、原告の商業登記簿謄本には、目的として、家具製造販売等と並んで室内外装飾工事が掲げられていることが認められる。

このように、確定申告書の事業種目欄の記載が、必ずしも、当該法人の事業の実態を反映するものではないことからすれば、右欄の記載のみを根拠に、原告の事業が木工家具製造業に当たるということはできない。

なお、乙一〇号証によれば、被告が、本件の比準同業者の中から五件を抽出して事業内容を確認したところ、うち四件は、原告と同様に、建設業者等の下請として家具取付業を営む者であったこと、また、被告の管内において、法人税の確定申告書の事業種目欄に内装工事業等と記載して申告をしている法人五件を抽出して事業内容を確認したところ、いずれも、家具の取付工事は行っておらず、壁や天井のクロス張り等を主な事業内容とするものであったことが認められる。

しかしながら、本件係争事業年度について、被告が抽出した比準同業者四〇件のうち、わずか四件が、原告と同様の家具取付工事を営む者であったからといって、被告の抽出基準が、業種の同一性に欠けるところがないとはにわかにいえず(右の比準同業者のうち、前記五件以外の者の事業内容は明らかでない。)、また、証人天野修二は、被告が抽出基準とした「もっぱら木工家具製造業を営むもの」とは、主として木材等の材料を仕入れ、木工家具を製造するものを意味し、被告が右基準に従い、被告管内から抽出した業者の中には、内装家具の取付工事を行うものは含まれていなかったととれる趣旨の証言をしていること(課税事績の報告を求められた被告以外の税務署長も、被告とほぼ同様の基準で比準同業者を抽出したことは、前記認定のとおりである。)からすれば、被告が、原告と同様の家具取付工事を主たる事業とする者を念頭において、比準同業者を抽出したものではないことは明らかである。

また、確定申告書の事業種目欄の記載と、当該法人の現実の事業内容が、必ずしも一致しないことは前述のとおりであり、右欄に内装工事業等と記載している者の中から被告が抽出した五件が、家具取付業を営んでいなかったからといって、内装工事業には、およそ家具取付業が含まれないということはできない。建設業の許可の関係では、内装仕上工事業の中に家具工事業が含まれることは、前記認定のとおりである。被告の主張は、理由がない。

以上のことから、被告の推計は、そもそも、同業者率による推計の基礎的条件である事業内容の同一性に欠けるものといわざるをえない。また、証拠(甲五六号証、証人天野修二の証言、原告代表者尋問の結果)によれば、被告が抽出基準とした木工家具製造業と、原告の営む木製家具(建具)工事業とでは、売上金額に占める材料費等の売上原価や経費の割合にも相当の差異があることが窺われる。そして、甲五六号証によれば、原告が、神奈川県土木部検査指導課保管の建設業許可申請書に添付された商業登記簿謄本等から、原告と同様に、木工関係の内装仕上工事業を営むと認められる法人八件を抽出し、右申請書の添付資料である損益計算書、完成工事原価報告書に基づき平成四年から平成八年までの各法人の計二四の決算期について、売上金額、材料費、外注費等の金額及びこれらが売上金額に占める割合等を調査した結果は、別紙の表2「内装仕上工事業者の完成工事原価比較表」のとおりであることが認められる。

もっとも、原告は、右の点について、これらの法人の各期の決算を見ると、材料費、外注費の金額は、いずれもばらつきがあるが、材料費と外注費の合計額が売上金額に占める割合は、概ね四割から六割の範囲内であり、その平均が約五割である点が特徴的であるから、右合計額を推計の基礎とすべきであり、材料費のみを売上原価としてした本件推計には合理性がないと主張するが、原告が調査の対象とした法人の決算期は、本件係争事業年度と異なること、木工関係の内装仕上工事業者であるということのほかに、原告がいかなる基準により調査の対象とする法人を抽出したのかも明らかでないことからすれば、右売上金額と材料費及び外注費との間に、原告の主張するような相関関係があるとまではにわかに即断し難い。

他方、被告は、原告の調査に係る右法人の売上金額に占める材料費の割合の平均は、二六・六三パーセントで、被告の抽出した比準同業者の売上原価率(昭和六二年一〇月期二五・四四パーセント、昭和六三年一〇月期二四・七二パーセント、平成元年一〇月期二四・二九パーセント)と近似しており、このことは、被告の推計の合理性を裏付けるものであるとする。しかし、前記認定のとおり、被告の抽出した比準同業者と、原告及び原告の調査に係る右法人とは、そもそも事業内容が異なるものであり、したがって、直ちに同様の方法で売上原価率を算出するのが相当であるとはいえないし、前述のように経費の額やそれが売上金額に占める割合にも差異があることが予想されるから、両者の売上原価率がたまたま近似した値であるからといって、被告の推計に合理性があるということはできない。

五  結論

以上のとおりであり、本件係争事業年度の原告の所得について被告がした推計は、推計の基礎的条件を欠き、合理性を認めることができないから、これを前提とする本件更正及び決定は、その余の点について判断するまでもなく、違法であって、取消しを免れない。

よって、本件請求のうち、本件更正及び決定の取消しを求める部分は理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 裁判官 近藤裕之)

別表一

本件青色申告承認の取消処分の経緯

<省略>

別表二の一

自昭和六一年一一月一日至昭和六二年一〇月三一日事業年度分 本件課税処分の経緯

<省略>

別表二の二

自昭和六二年一一月一日至昭和六三年一〇月三一日事業年度分 本件課税処分の経緯

<省略>

別表二の三

自昭和六三年一一月一日至平成元年一〇月三一日事業年度分 本件課税処分の経緯

<省略>

別紙1

木工家具製造に係る材料仕入金額

<省略>

別紙2の1

木工家具製造に係る比準同業者

<省略>

別紙2の2

木工家具製造に係る比準同業者

<省略>

別紙2の3

木工家具製造に係る比準同業者

<省略>

別紙一

61.11.1~62.10.31第2期(昭和62年10月期)

第1分類 無し

第2分類

<省略>

第3分類 無し

第4分類

<省略>

第5分類

<省略>

別紙二

62.11.1~63.10.31第3期(昭和63年10月期)

第1分類 無し

第2分類

<省略>

第3分類

<省略>

第4分類

<省略>

第5分類

<省略>

別紙三

63.11.1~元.10.31第4期(平成元年10月期)

第1分類

<省略>

第2分類

<省略>

第3分類

<省略>

第4分類 無し

第5分類

<省略>

表1

七五三木木工所製造原価比較表

<省略>

表2

内装仕上工事業者の完成工事原価比較表

<省略>

得意先売り上げ一覧表

<省略>

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